究極のメダカ師になることはおそらく司法試験合格より難しい、という話

ヒレや体外光を伸ばしたい、ラメの密度を高めたい。そのためにいい種親を入手したい。

ところがせっかく良い（と思った）種親から累代してもその子孫は改良が進むどころか劣化してしまう。こんな経験をお持ちの方は多いかと思います。

なぜそんなことが起こるのか。

それは人間が考える「改良」は自然の摂理における「劣化」であり自然の摂理における「進化」は人間が考える「劣化」だということ。おそらくこの視点が抜け落ちているからではないでしょうか。

観賞魚としてはよりヒレを伸ばしたいし、より煌びやかにしたい。一方、メダカの気持ちは違います。原種の姿に戻りたいのです。外敵から身を守りたいという本能があるからです。これが自然の摂理。だから改良メダカは百年千年かけてでも野生メダカの姿に戻ろうとするし、金魚もどんどんフナに戻ろうとするのです。

これはやってはいけないことですが、仮に幹之リアルロングフィンを野生に放つとどうなるか。１０００年後の子孫は野生メダカの姿になっているのではないでしょうか。

この考えはらんちゅうから学びました。赤や紅白で、尾が開き、背びれを失い、頭にこぶがある。らんちゅうとはいかにフナから遠ざけた姿にしていくかという人間の遊び心が造り上げた魚です。

だけど背びれが出て来るとか、尾が閉じているという２００年も先祖返りするような現象は珍しくなく起こります。頭のコブに至ってはいとも簡単に失われていくのです。いずれも泳ぐのには邪魔でしかないですから。

その摂理を乗り越えて改良を進めていくにはどうすれば良いのか。

とにもかくにも改良に最適なベストなオスとメスをピンポイントで見極めてそこから子供を取っていくことが大事なのです。そしてその種親選択は理論と経験と戦略に裏付けされた上で何世代にもわたって的確でなければいけません。

良い種親を入手すると３世代くらいは誰でもいい魚を取ることができます。それを１０世代、２０世代、１０年、２０年と継続発展させることは大変難しいことなのです。

１００年以上続くらんちゅうの世界ですら、現在それができるブリーダーはおそらく全国で１０人もいないと思います。そんな中、同じ堀切にお住まいの私のらんちゅうの師匠（６０代男性）は間違いなくその一人に入る人です。

らんちゅうの場合は１００年以上続く品評会があります。そこで１０年以上好成績を出し続けることができるか否かで種魚を改良することができるブリーダーか否かの結果がはっきりと証明されてしまいます。３年くらい好成績を出す人はたくさんいるのですが、１０年好成績を出し続ける人は極めて少ないのです。

師匠の飼育、育成の技術が長けているのは当然ですが、何よりも他の追従を許さないのがその方が３０年かかって築き上げた種親戦略論です。その神髄がどこにあるのか。尾型なのか、胴なのか、頭のコブなのか、その複合要因なのか。徒歩１０分の所にお住いの師匠と年中コミュニケーションをとらせていただき、さらには多数の大御所と酒を飲み、古書も含め大量の書籍を買い集めて大学受験勉強よりらんちゅうを勉強してきた私でもその本質は３割ぐらいしかつかめていません。

メダカの世界にそのような達人がいるのか、は知りませんが仮にいてもらんちゅうの領域のような深い経験、理論、戦略を持ち合わせた人は指折り数えるほどいかいないと思われます。例えていえばまさに大学受験勉強より努力しなければたどり付けないはず。もっと言えば司法試験並みの努力が必要かもしれません。当然私もまだまだです。

ただ、メダカの場合はらんちゅうの５倍くらいの速度で累代ができます。そこに一つの希望の光があります。

私が残りの人生をかけてメダカの道を極めていきたいのはまさにそこ。１０年２０年劣化しない種親論を確立し自分のものにすることです。本当に面白い、やりがいのある趣味だと思います。

ちなみに堀切カクテルラメの天皇制プロジェクトはその研究の一環です。