堀切めだかが拡大戦略をとる理由

夏の開店を目指して埼玉県の５号店の開店準備が始まりました。ここは堀切めだかの基幹店舗となりうる規模であり、大型養魚場としての機能も持ち合わせることが可能です。そこで働くスタッフはまずは２名。

これとは別に９月に女性社員１名の入社が内定。この方は１０年以上芸能事務所のマネージャーをしてきた方です。彼女を責任者としての通販部門の立ち上げを年内に予定しています。

このように今後も堀切めだかネットワークはどんどん拡大の方向に向かっていきます。その最大の目的は何か。単純な事業欲、金銭欲ではありません。

私は現在５７歳。この先は数年かもしれませんし、３０年くらいはあるかも、という年齢です。もう残りの人生はメダカ中心と決めています。そこで何よりもこだわりたいことは量や規模の拡大ではなく質の高いメダカ造りをすることなのです。

しかし「質は量から」という言葉があります。ネットワークを大きくすることで量を確保し、質を上げるという戦略です。量はメダカだけではなく人材も、です。人間の知見も多くの人の力を借りて結集し、高めていこうというものです。

これはらんちゅうをやってきたことに大きく影響を受けています。同じ品種の魚でもその品質には天と地ほどの差があるのがらんちゅうです。そして「天」のらんちゅうとは何かを理解し、触れることで得た感動は「人生をかけるに値する」と思えるものです。

そのらんちゅうの世界において大変賢い戦略をとり、高いレベルまでに上り詰めた方がいます。そのエピソードはこの本に記されています。

ここに記されている「渡谷（わたたに）氏」がその人です。渡谷さん私より１学年上の方。お住まいも５ｋｍくらいしか離れていないこともあり、５年ほど前から仲良くさせていただいています。著者の川田氏も含め、何度も飲み会でご一緒させていただいています。

渡谷さんはまず２０代のころ、らんちゅうに対して誰よりも大きな投資をしました。そのことで成績も残しながら一気に一流らんちゅう師の仲間入りを果たします。その後、１０人以上の仲間に対し、師匠と弟子という関係を構築（なんと弟子は渡谷さんの年上も多数）。お弟子さんたちに自分が系統立てて作りたいらんちゅうの卵を配り、普通の人の１０倍以上の子を採ることで１年で１０年分の経験値を得るという戦略をとられました。

ここに書かれているようにまさに「普通の人ができることではない」戦略です。

コロナ渦以降、ご本人の体調不良もあって渡谷さんとはほとんどお会いできていないのですが、３日前にらんちゅうの会である人が出陳した「渡谷さんからもらった卵から育てた２歳魚」を３匹拝見させていただく機会がありました。

その姿は３０年以上かけて築き上げてきた渡谷系の魅力にあふれていました。他人に育てさせてもこうなる、こういう魚を目指していたのだなというメッセージが３匹の魚の姿から伝わってくるのです。とても感動しました。

この感動こそが改良メダカにおける「改良」の目指すべき道だと思うのです。

らんちゅう界には師匠と呼ばれる偉人がたくさんいます。哲学も師匠ごとに違いがあります。

その様子はプロレス界に良く似ていると思います。プロレスも力道山に始まり、馬場、猪木、長州、前田、大仁田など多くの「師匠」たちがそれぞれの哲学でそれぞれに多くのファンを感動させてきた世界です。

６０年以上に及ぶ日本のプロレス界の歴史の中でファンが学習したことは「それでよかったのだ」ということです。誰が一番強いか、などを問う世界ではないと。戦争などせず健全に競合すればいいのだと。

歴史の浅い改良メダカ界ではまだ師匠という言葉を聞くことはほとんどありません。そんなメダカ界でも５０年後くらいには誰かがこう言っているかもしれませんね。

「なんかプロレス界に似ているな」

そうなったら素敵だし、それでいいと思います。